
食品業界において、注意を払わなければならない重要なテーマのひとつが「食物アレルギー」です。飲料メーカーにおいても、意図しない食物アレルゲンの混入(コンタミネーション)が発生した場合、製品の回収や信頼性の低下といった事態を引き起こす可能性があります。
本コラムでは、実際に飲料メーカーの方に伺った話を元に、食物アレルゲンの混入事例と、製造過程での混入原因や具体的な対策について解説します。
飲料業界の危機管理!食物アレルゲン混入リスクとは?
飲料メーカーを含む食品製造事業者にとって、製品への食物アレルゲンの意図せざる混入(コンタミネーション)は、消費者に健康被害をもたらす可能性があり、重大なリスクとなり得ます。
食物アレルゲンの混入による製品回収は、飲料メーカーに対する信頼を大きく損ないます。製品回収が発生すると、企業のブランドイメージが損なわれるだけでなく、売上減少や市場シェアの低下、さらには回収に伴うコストも大幅に発生し、これらは企業の経営に影響を及ぼす可能性があります。
飲料メーカーを含む食品製造事業者にとって、このようなリスクを回避するために、食物アレルゲンの徹底した管理を行うことが求められます。製造設備の専用化や洗浄、製造に携わる従業員への教育訓練などの、食物アレルゲンの混入を防ぐための対策を何重にも講じることで、消費者に安全な製品を提供することができます。
次節では、飲料メーカーで実際に発生した食物アレルゲンの混入事例を紹介しながら、製造過程において食物アレルゲンの混入が発生する原因と、混入防止に向けた効果的な洗浄方法についても解説いたします。
飲料製品での食物アレルゲン混入事例
現在では、食品衛生法及び食品表示法の一部改正(令和3年6月1日施行)に伴い、食品表示リコール情報サイト(食品衛生申請等システム) ※1の運用が開始されています。このサイトで公開されている情報を参照すると、食物アレルギーに関する回収理由としては、誤表示や表示漏れが多いことがわかりますが、製造過程で意図せず食物アレルゲンが混入する事例も発生しています。
過去に飲料製品で回収が行われた食物アレルゲン混入事例としては、缶コーヒーの製造過程で他の製品の乳成分が誤って混入し、食物アレルギーの症状を引き起こす恐れがあるとして、製品回収が行われた事例があります。
別の事例では、茶系飲料に本来含まれるはずのない乳成分が混入していることが判明し、同様に製品が回収されました。これらの事例のように、製造過程で意図せず食物アレルゲンが混入することが回収理由となる事例も少なからず発生していることから、そうした事態に対する対策も怠ってはならないことがわかります。
食物アレルゲン混入の原因と混入防止に向けた効果的な洗浄方法
食物アレルゲンが製造過程で混入する原因はさまざまですが、その主な原因と、混入防止に向けた効果的な洗浄方法について解説いたします。
製造工程での食物アレルゲンの混入を防ぐためには、製造設備や器具の適切な洗浄が必要不可欠です。洗浄が不十分であると、前回使用した原材料が残留し、次回の製造時に影響を及ぼす可能性があります。
効果的な洗浄を行うためには、製品の特性や製造設備に適した洗剤や洗浄方法を選択することが重要です。例えば、食物アレルゲンの汚れにはアルカリ性洗剤が効果的であることが知られています。適切な洗浄方法を確立することで、次回の製造時に食物アレルゲンの混入リスクを減らすことができます。
また、飲料製造で一般的に使用される洗浄方法には、COP洗浄(Cleaning Out of Place:分解洗浄)とCIP洗浄(Cleaning In Place:定置洗浄)があります。
COP洗浄は、製造設備や器具を分解して洗浄する方法で、複雑な構造を持つ器具の洗浄が必要な場合に適しています。例えば、増粘剤などを水に分散する際に使用されるミキサーは、構造が複雑なため汚れが蓄積しやすく、目視では見逃されがちです。経験上、特に粘性の高い分散液やダマがミキサーの刃の裏側に付着すると、目視で見落とされやすく、洗浄が不十分になる傾向があり、その結果、食物アレルゲンが残留する恐れがあります。そのため、器具の隅々まで洗浄を徹底することが必要になります。また、中小企業の飲料メーカーでは、少量多品種生産が求められることが多く、製品変更のたびに、あるいは製造設備のオーバーホール(メンテナンス)時にも配管の分解洗浄を行うことがあります。分解洗浄を徹底することで、細部まで汚れをしっかりと除去し、食物アレルゲンの残留を防ぐことが重要です。
一方、CIP洗浄は、製造設備を分解せずに内部を洗浄するシステムです。配管内に洗浄液を循環させて洗浄を行いますが、洗浄液の選択や洗浄時間が適切でない場合、食物アレルゲンを完全に除去できない可能性があります。特に、製造品目を切り替える際に洗浄方法が異なる場合、適切でない洗浄プログラムを選択すると、十分な洗浄が行われず、原材料が残留するリスクが高まります。この残留物は、次回の製造時に食物アレルゲンとして混入する恐れがあります。そのため、食物アレルゲンが確実に除去されているかどうか、洗浄の効果を検証することが重要です。

また、洗浄効果を検証する際に、食物アレルゲンの検査を導入することは有効です。洗浄後のすすぎ水の検査や、定期的な検査を行うことでリスクを低減し、食物アレルゲンの残存がないことを確認できます。弊社は、洗浄後のすすぎ水に含まれる食物アレルゲンを簡単に検査するためのキット『ナノトラップ Easy』を販売しております。これは、結果を目視で判定するだけの簡易キットですので、特別な機器を必要としません。また、10分で結果が得られます。規模の小さな食品工場でも取り扱いが容易な検査キットです。このような検査キットを使用することも効果的です。
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おわりに
飲料メーカーにとって、意図せざる食物アレルゲンの混入(コンタミネーション)の防止は、消費者の健康と安全を守るために欠かせない重要な課題です。
食物アレルゲンの混入リスクを低減するためには、製造プロセス全体の見直しが重要です。適切な洗浄方法の導入などの対策を行うことが求められます。また、食物アレルゲンの検査を取り入れることで、見えないリスクを早期に発見し、対策を講じることも有効です。
本コラムでは、食物アレルゲンの混入原因と防止に関する対策についてご紹介しました。これらの情報を参考にしていただき、製品の安全性向上に役立てていただければ幸いです。
また、食物アレルゲン管理のポイントについて詳しく解説している記事『基本中の基本! 食品製造業における食物アレルゲン管理のポイント』もありますので、ぜひご覧ください。
参考資料
※1 食品表示リコール情報及び違反情報サイト(消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_recall
(著者:㈱森永生科学研究所 学術担当 菅村茉莉佳)


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